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東京地方裁判所 平成10年(ワ)7371号 判決

原告

X

被告

Y1

被告

Y2

右両名訴訟代理人弁護士

森野嘉郎

松田豊治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自金一億五〇〇〇万円及びこれに対する被告Y1については平成一〇年四月二一日から、被告Y2については同月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、七年間香川大学法学部及び同大学大学院法学研究科教授の職にあった原告が、横浜弁護士会を経て、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)に対し、弁護士名簿への登録請求をしたことろ、同会がこれを拒絶する旨の決定(以下「本件決定」という。)をしたため、同会の会長である被告Y1及び同会資格審査会委員である被告Y2を相手に、被告らの職権濫用等を理由として、不法行為に基づく慰謝料等の損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、香川大学法学部及び同大学大学院法学研究科教授として、満七年間研究、教育に従事し、平成九年三月末日付けで同大学を定年退官し、同日横浜弁護士会に弁護士登録の請求をした。

2  日弁連は、同年七月一六日、横浜弁護士会から進達のあった右請求について、審査(以下「本件審査」という。)を開始した。

3  日弁連は、右請求について、これを拒絶する旨の決定をし、その決定書謄本を原告に送達した。

4  被告Y1は、当時の日弁連の会長であり、被告Y2は当時の日弁連資格審査会の委員であり、いずれも本件審査にあたった。

三  争点

本件決定には、原告主張の違法事由、すなわち①弁護士法五条三号を適用しなかった誤り、②日弁連資格審査会の権限が及ばない事項について議決した誤り、③原告に対し、本件決定に対する陳述を述べる機会を与えなかった誤り、④徒に決定を遅延した誤り、などが存在するか否か、及び仮にそのような事由が存在するとして、被告らが違法に職務行為を行ったためこのような決定がされたか(違法性及び因果関係)、これにつき被告らに故意、過失(帰責事由)が存したか否かである。

第三  争点に対する判断

一  争点①について

弁護士法五条三号が、五年以上、所定の大学等において、法律学の教授又は助教授の職にあった者に対し、弁護士となる資格を認めることとし、弁護士となる資格を有する者を司法修習生の修習を終えた者としている同法四条の例外を認めた趣旨は、一般的には、このような者は、その専門分野のみならず、憲法、民法、商法、刑法、等の基本的な実体法及び民事訴訟法、刑事訴訟法、行政事件訴訟法等の手続法につき法律的素養を身につけており、司法修習を経なくても、法律実務家として、直ちに依頼者からの要請に応じられる程度の知識を有していると推認することができるからであると解される。そうすると、同号にいう「法律学」に該当するといえるためには、その者が担当していた法律科目が、法律実務家として必要な基本的な実体法及び手続法に属するか、又はこれらを前提とし、これと密接不可分の内容を有していたことが必要であるというべきである。

これを本件についてみるに、弁論の全趣旨によれば、原告は、長年税務行政に携わり、平成二年四月から平成九年三月まで、香川大学において租税法の講議、演習等を担当していたことが認められるところ、租税法は、その対象とする範囲が相当広い上、専門技術的分野にわたることが多いから、直ちにこれを前記の法律学に該当すると認めることはできず、また、前記原告の経歴、弁論の全趣旨により認められる著書、論文等からすると、原告が同大学で担当した講議等の法律科目は、基本的実体法及び手続法を前提とし、これと密接不可分の内容を有するものと認めることはできない。

したがって、本件決定には、弁護士法五条三号の適用の誤りは存しないものというべきである。

二  争点②について

原告は、日弁連資格審査会の権限が及ばない事項について議決した誤りがあると主張するが、それ自体抽象的で、主張に具体性がない上、被告らを始めとする日弁連資格審査会の委員が本件審査及び本件決定において、本来権限が及ばない事項について審査、議決したことを窺わせる証拠もない。

三  争点③について

これを認めるに足りる証拠はない。かえって、弁論の全趣旨によれば、原告は、日弁連に対し、書面で自己の主張を明確にし、それを裏付ける資料を提出していることが認められる。

四  争点④について

原告が本件請求を行ったのは平成九年三月末日であることがその主張上明らかであり、弁論の全趣旨によれば、日弁連は、平成一〇年一月二七日本件決定を行ったものと認められるところ、本件事案の性質、原告の請求内容等からすると、この程度の審査期間は必要であって、本件審理期間は相当というべきである。よって、原告の右主張は採用できない。

第四  結論

そうすると、原告の本訴請求は、その余の点を検討するまでもなく、いずれも理由がないこととなる。

(裁判官小磯武男)

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